アロマテラピーの歴史(古代から現代まで)

アロマテラピー基礎知識

日常で時折耳にする、「アロマテラピー」という言葉。

いつから日本で楽しまれているか、ご存じない方もいらっしゃるのではないでしょうか。

「アロマテラピーは香りを楽しむだけ?」「ちょっとした流行りのものじゃない?」と思っていませんか?

言葉自体は新しくても、アロマテラピーにつながる香りの歴史はかなり長いのです。

そこで、香りの歴史を紐解き、そこからアロマテラピーの魅力に迫ります。

古代:アロマテラピーの起源

人々と香りとの関係はとても古く、紀元前3000年ごろまでさかのぼります。

古代における香りの価値や、当時行われた研究について見ていきましょう。

エジプト

古代文明が起こったエジプトでは、儀式やミイラ作りに香料が使われました。

香りは「神の領域と交信するための手段」と考えられていたのです。樹脂からできた、フランキンセンス(乳香)やミルラ(没薬;もつやく)を焚いて、身を清めました。

ミルラは、ミイラ作りの際に防腐剤としても用いられました。この時代から殺菌・防腐・殺菌作用が知られているとは、本当に驚きますよね。

また、香りは神の信仰にだけ使われたのではありません。

絶世の美女として有名なクレオパトラは、バラやジャスミンの香りを愛用していたと言われています。

ギリシャ・ローマ

哲学や医学が誕生したギリシャやローマでは、植物やその香りを治療のために使いました。

ヒポクラテスは、神官などによる呪術的な手法から、病気を科学的にとらえることを提唱。医学の礎を築いたことから、「医学の父」と呼ばれています。

彼は、著書「ヒポクラテス全集」の中で、伝染病予防治療や、入浴やマッサージに芳香植物を用いることを推奨しました。

また、テオフラストスは植物を科学的に分類することを試み、500種にもおよぶ植物を発表。「植物学の祖」と呼ばれました。

そして、古代ローマのネロ皇帝のもとで軍医をしていた、ディオスコリデス。「薬学の祖」

と呼ばれる人物です。

600種類もの薬草を書物にまとめ、その後の西洋医学に影響を与えたとされています。

このように、古代ギリシャ・ローマでは香りを科学的な視点からとらえ、医学や薬学にも活用・発展していきました。

中世:アロマテラピーの発展

古代エジプト、ギリシャ、ローマで、医療や薬学の基礎が作られた後、他の地域にどのような影響があったのでしょうか。

ここでは、中世で顕著な動きのあった国について見ていきましょう。

アラビア

ローマ帝国の滅亡後、文化の中心はアラビアへと移りました。

アラビアでは、ギリシャやローマの文献がアラビア語に翻訳され、アラビア医学や錬金術と融合。独自の医学として発展しました。

そんな時期に、画期的な方法を打ち出したのがイブン・シーナです。

哲学者でもあり医学者でもある彼は、「医学典範(カノン)」を著したことで有名な人物。書籍は、17世紀ごろまでヨーロッパの医学で広く使われたほどです。

イブン・シーナは、なんと精油(エッセンシャルオイル)の蒸留方法を確立。得られた芳香蒸留水を治療に使いました。

現在のアロマテラピーの精油作りにおいて、水蒸気蒸留法はなくてはならないもの。彼の功績は非常に大きいです。

ヨーロッパ

中世ヨーロッパでは、教会や修道院が病院や薬局の役割も担っていました。

そこへ、十字軍の遠征によって、アラビアから文献や精油蒸留法が伝来。さらなる発展へとつながりました。

その後、修道院の僧がハンガリー王妃1世に献上した、痛み止めの薬が話題に。

ローズマリーが主成分の薬を使い続けた後、劇的な出来事が起こります。隣国の王子が高齢の王妃に求婚したのです。のちに「若返りの水(ハンガリーウォーター)」として伝えられました。

現代:アロマテラピーの現在

実は、「アロマテラピー」という言葉が誕生したのは、20世紀!

意外にも、歴史の新しい用語ですね。

かねてより芳香療法は使われていましたが、どのような経緯で生まれたのでしょうか。また、それによってどのような変遷を遂げたのか見ていきましょう。

フランス

「アロマテラピー」は、「アロマ」(芳香)+「テラピー」(療法)を組み合わせた造語。フランスの科学者、ルネ・モーリス・ガットフォゼが著書で使ったのがきっかけです。

彼は実験中にやけどを負い、その治療にラベンダーの精油を使って効果を得たことから、精油の研究を進めるようになりました。

その後、1937年に著書「aromatherapie」を発表し、この本が各国で翻訳されたことで「アロマテラピー」が一気に広がったのです。

1964年には、医師ジャン・バルネが「AROMATHERAPIE」を執筆。第二次世界大戦中に、精油で手当したことを記しました。

また、生化学者マルグリット・モーリーは、精油を植物油で希釈して肌に使う方法を発表しました。

このように、フランスではアロマテラピーを医療分野としてとらえ、現代では治療方法の選択肢のひとつとなっているのです。

イギリス

マルグリット・モーリーが提唱した、肌のトリートメントの方法論はイギリスでも翻訳され、さらに発展していきました。

心と身体をトータルに癒し、ケアしていくという考え方で、「ホリスティック・アロマテラピー」と呼ばれています。

1960年代からは、アロマテラピストと呼ばれる人達が、専門スクールを開講。卒業生は各地でサロンを開いたり、医療・福祉の現場で活躍したりと大活躍!

さまざまな分野で広がっていきました。

また1977年には、ロバート・ティスランドが「The Art of Aromatherapy(芳香療法の理論と実践)」を執筆。アロマセラピストの視点から書かれた書籍は各国で翻訳され、世界に普及していきました。

「ホリスティック・アロマテラピー」の流れを汲み、病院やホスピスでは緩和ケアの一環としてアロマテラピーが用いられています。

イタリア

イタリアでは、20世紀に入ってから精油の学術的な研究が進められました。

1920年代には、医師のガッティーとカヨラが精油の治療効果について、幅広く研究していきました。

さらに1970年代には、パオロ・ロベスティが精神科分野での臨床例を発表。柑橘系の精油がうつ病や神経症に治療効果があると唱えました。

日本でのアロマテラピーの歴史

日本においても香りの文化は古くからあります。

いつから始まり、どのように発展していったのでしょうか。

また、アロマテラピーが日本に入ってきた背景や、現代に至るまでの広がりの様子についても見ていきましょう。

飛鳥時代から大正時代

日本では、飛鳥時代の香木(こうぼく)から始まったと言われています。

平安時代には「お香」を焚き、室町時代には香木を焚いて楽しむ「香道」が行われました。いずれも貴族社会の中で始まり、洗練されていった文化です。

庶民が身近に感じるようになったのは、江戸時代から。

江戸初期の鬢(びん)付け油に始まり、中期からは肌や髪に香油が用いられました。

さらに、大正時代には「香料」を食品としても利用するようになり、香りの用途の幅が広がってきました。

昭和後半から現代へ

1970年代になると、海外の薬草・香草の「ハーブ」が輸入されるようになります。

その流れを受けて、1980年には熊井明子が「ポプリ」紹介し、話題に。

「ポプリ」とは、花や葉、果物の皮、ハーブなどを、精油または専用オイルと混ぜあわせて容器に保存したものです。

植物の香りと見た目のおしゃれさが人気となり、女性を中心に人気となりました。

そして、日本にアロマテラピーの概念が入ったのは、1980年代に入ってから。ロバート・ティスランドの著書が日本でも翻訳され、これがアロマテラピー普及のきっかけとなりました。

その後、都市部から始められたアロマスクールやアロマテラピー専門店は、少しずつ全国へ。

アロマテラピー専門店や雑貨店にも精油が置かれるようになり、人気となりました。

1990年代には、日本でもアロマテラピー関連団体による普及活動が盛んになってきました。

代表的なものとして、日本アロマテラピー協会(現・日本アロマ環境協会)や日本アロマコーディネーター協会など。

各団体独自の資格試験が実施されており、趣味にとどまらず、仕事として生かせる道も提示しています。

アロマテラピーの楽しみ方の変化

日本では歴史の浅いアロマテラピーですが、どのように親しまれているのでしょうか。

リラクゼーション

日本では、主にリラクゼーションの分野を中心に普及していきました。

実は、これまで「アロマはサロンでするもの」と少し敷居の高いイメージがありました。

しかし、最近ではお店でキャリアオイルの品揃えも増え、好きな精油を混ぜて個人で楽しむ方も増えてきています。

たとえば、ティッシュやお湯を入れたカップ、アロマポットなどに精油を落として香らせる方法。手軽に楽しめるので、人気となりました。

その後、アロマディフューザー(熱や超音波で香りを拡散するアイテム)が登場し、主流となっていきます。近年では、使い手が選べるアイテムが増えてきており、楽しみ方も多様になりました。

そして近年では、アロマサロンでハンドマッサージのようなものから全身ケアまでできるお店が全国にありますね。

これはキャリアオイル(ホホバオイル、グレープシードオイルなど植物などからとったオイル)に精油を混ぜ、マッサージしながら肌をトリートメントするもの。老廃物を流し、身体がすっきりするということで喜ばれています。

このように、サロンから始まったアロマトリートメントはメニューが多彩になり、個人でもさまざまな楽しみ方をするようになりました。

手作り化粧品

アロマテラピーは、精油を使って化粧品を手作りすることができるのも魅力のひとつです。ハンドクラフトの工程を楽しみながら、好きな精油を落として癒されるなんて気分が上がりますね。

しかも、植物由来のものばかり。アロマテラピー専門店で気軽に材料が揃えられます。

楽しみ方は、バスソルトや手作り化粧品、ハンドクリームや虫よけスプレーなど、さまざま。

昔は本を読んだり、店員さんにききながら試してみたりした方も多くいました。現在ではYoutubeなどの動画を観ながら楽しむ方も増えています。

まとめ

アロマテラピーの歴史について見ていきました。

「アロマテラピー」という言葉は20世紀になってからですが、源流となる香りの歴史はとても長きにわたるもの。

時代の流れや国の文化とうまく融合しながら、発展していったのがよくわかりますね。

日本でのアロマテラピーの歴史は、半世紀にも満たないです。

今後も、リラクゼーションにとどまらず、他国の文化を取り入れながら発展していくことでしょう。医療・介護・教育をはじめ、さまざまな分野に活用されることに期待しています。

(ライター:ちびわん)

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